荒廃粒子的黒白仕事

 先日、店にモノクロ現像の備品を置きっぱなしにしていたら男子大学生のお客様がそれに食いついてきました。聞くところによると最近ご自分も自家現像にはまっていて、現像液がどうとか疲労がどうとか、感度をプッシュしてどうとか、液温がどうとか攪拌がどうとか……はまり始めのテンション全開でこちらも楽しく拝聴しました。

 そしてさらに聞いていくと端々に昭和の大御所所写真家が登場するので、僕の15年くらい過去の写真を何点かタブレットでお見せしてみたのです。そうしてやっと、彼の好みがいわゆるプッシュプロセスによる荒粒子のモノクロ写真だということが分かってきました。そしてその技法をとにかく信じられないくらい複雑に捉えていて、自分などにはまだまだ先の話だと考えているようでした。

 さてこれは……不詳この僕が一肌脱ぐべきか、ほっとくべきか、、何ヶ月か打ち込めば、現像液ケミカルを秒単位1℃単位で加減する事にさほど意味はなく、テキトーにやればやるほど面白くなってくることに気付くのはそう難しくないのは確かですけれども……

 まさかこの僕の荒廃粒子モノクロ画像が、30℃のあるいは入浴可能な高温現像液によってもたらされているいるという事実までたどり着くのにどんな期間を要するかはたまた、それまで巷の感材供給がどうなっていくかは闇の中なので、普通にお教えすることと相成りました。

 自分で黒白フィルム現像を始めてかなり経ちますが、荒廃粒子をデフォルトにしてまだ10年くらい……粒子を荒らし始めて身についたことは、自分がどのような光線環境で撮影したかについて更に敏感になったということ。秒単位1℃単位のケミカル操作は適当で良いと言ってしまう反面、現場の光の回り具合を思い出して現像プロセス中「グッと堪えてあと15秒……」とか「思い切ってプラス30秒……」とかはやっているという矛盾するお話なのです。